着物で運転できる?違反の可能性と着物で安全に運転するポイント
着物で出かける際、なるべく徒歩移動を減らそうと車での移動を検討する方もいるのではないでしょうか。
しかし、自分で車を運転しなければならない場合、着物での運転が「安全運転の義務」に反してしまう可能性があります。なかには「着物で運転したら法律違反になりそう……」と不安な方もいるのではないでしょうか。
そこで今回は、着物での運転と法律の関係、着物で安全に運転するための方法を解説します。着崩れを防ぐ運転のコツにもふれているため、着物での運転に不安がある方はぜひ参考にしてください。
■着物で車を運転すると法律違反になる?
着物で車を運転するうえで、法律違反になることはあるのでしょうか。まずは、着物での運転と法律の関係について解説します。
◇道路交通法上では違反にならない
警察庁が定める道路交通法においては、運転時の服装や履物に関する記載はありません。そのため、着物で運転したからといって道路交通法を違反してしまう心配はありません。
ただし、道路交通法の第70条では「安全運転の義務」が定められており、運転者はこの条項を遵守する必要があります。
(安全運転の義務)
第七十条 車両等の運転者は、当該車両等のハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作し、かつ、道路、交通及び当該車両等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない。(罰則 第百十七条の二第一項第四号、第百十七条の二の二第一項第八号チ、第百十九条第一項第十四号、同条第三項)
◇都道府県によっては違反になる可能性あり
道路交通法とは別に、各都道府県の公安委員会では道路交通法施行細則が定められています。道路交通法施行細則の内容は都道府県によって異なるため、地域によっては着物で運転することが違反となる可能性があることを知っておきましょう。
例えば、道路交通法施行細則に服装に関する条項を定めている秋田県では、着物で秋田県内を運転すると検挙の対象となる可能性があります。
(運転者の遵守事項)
第11条 法第71条第6号の規定による公安委員会が必要と認めて定める事項は、次に掲げるものとする。
~一部省略~
(2) 運転操作の妨げとなるような服装をし、又はげた類、木製サンダルその他運転操作の妨げとなるような履物を履いて、自動車又は原動機付自転車を運転しないこと。
引用元:秋田県道路交通法施行細則
過去には実際に、運転操作に支障があるとして、福井県で袈裟を着た僧侶が検挙されました。
多くの都道府県では履物に関する道路交通法施行細則が定められており、服装に関する規定があるのは「秋田県」「栃木県」「愛知県」「滋賀県」「三重県」のわずか5県です。
上記のエリアで運転をしたり、長距離移動で上記の県を通過したりする際は注意が必要です。
◇履物はほとんどの都道府県で規定あり
前述したように、履物に関してはほとんどの都道府県で道路交通施行細則に規定があります(青森県のみ規定なし)。
規定では下駄やサンダル、ハイヒールなどに関しての記載が多く見られます。
(運転者の遵守事項)
第14条 法第71条第6号の規定により車両等の運転者が遵守しなければならない事項は、次に掲げるとおりとする。
~一部省略~
(2) 下駄、ハイヒール、スパイクシユーズ等運転操作の妨げとなるような履物または衣服を着用して自動車および原動機付自転車を運転しないこと。
引用元:滋賀県道路交通法施行細則
服装の規定がない都道府県でも、着物で運転するときは草履を履き替え、安全な運転ができるように十分に配慮しましょう。
■着物で車を安全に運転するポイント4つ
着物で車を運転する場合、安全運転を行ない、規定違反のリスクや事故によるトラブルを未然に防いでいきましょう。
ここからは、着物で安全に運転するポイントを解説します。
◇着物の袖をまとめる
着物の袖は長いため、シャツやセーターなどの洋服に比べるとハンドルやシフトレバーの操作がしにくい特徴があります。
誤操作を防ぐためにも、着物で運転する際は袖を帯に留めたり、裾同士を結んだりしてまとめましょう。より動きやすくするために腰紐を使った「たすきがけ」で袖をまとめる方法もおすすめです。
<たすきがけの手順>
- 腰紐の端同士を結んで輪を作る
- 結び目を左右どちらかの手に持って両手で輪をねじり、横向きの8の字を作る
- 左右の輪にそのまま腕を通す
- クロスしている腰紐を頭上から背中側にかける
- 腰紐で袖が留まるように袖の位置を調整する
- 腰紐が緩い場合は1の結び目を結び直して締め具合を調節する
- 腕を動かしやすい状態で、袖を固定できたら完成
◇履き慣れた靴に履き替える
道路交通法施行細則の規定の有無を問わず、草履や下駄を履いている場合はスニーカーなどの運転に適した靴へ履き替えが必要です。
草履の運転は加速や減速の操作がしにくいうえに、滑ったりペダルに引っかかったりする可能性があるため注意しましょう。
なお、草履や下駄だけでなく、以下のような履物も運転には適しません。
<運転に適さない履物の例>
サンダル、スリッパ、ハイヒール、厚底ソールの靴、ソールが擦りへった靴、ソールが硬い長靴、革底の靴 など
◇着物の下にパンツを履く
着物は裾を絞って着付けするため、そのままでは脚を自由に動かせません。脚を動かしにくい状態で運転するとペダル操作に支障が出る場合もあるため注意しましょう。
脚を開くと着崩れの原因になるため、着物を着たまま緩いパンツを履くとよいでしょう。サルエルパンツやもんぺのほか、着物に合わせやすい和装向けのズボンなどもあります。
◇スケジュールに余裕を持つ
時間に余裕がなくなると事故のリスクが高まるため、余裕をもったスケジュールで移動・運転することが大切です。
特に、着物を着ているときは一つひとつの動作に時間がかかります。車の乗り降りや歩くスピードが普段より遅くなることで、想定以上に移動時間がかかることもあるでしょう。
また、スピードを出して運転すると、いざというときに急ハンドルが必要になります。何枚も重ね着をしている着物の状態では、咄嗟のハンドル操作も難しくなります。
時間に余裕をもってゆったりと運転できれば、急ハンドルが必要になることも少ないでしょう。
■車の運転で着物の着崩れ・汚れを防ぐコツ
着物で運転すると気付かないうちに着崩れしたり、汚れがついてしまったりする可能性があります。着物で運転する際の着崩れや汚れを防ぐためにも、以下の工夫を取り入れましょう。
◇シートは後ろ向きから座る
運転席や助手席など座席を問わず、着物で車に乗る際は後ろ向きで腰から座るようにするのが基本です。
脚を開くと着崩れの原因になるため、腰かける際は裾を軽く引き上げてから腰を下ろし、両足をそろえた状態で身体を回転させて乗車しましょう。
手荷物がある場合は先に車のなかに積んでおくとスムーズに乗車できます。
◇シートにもたれかからない
普段の運転のようにシートに深く座るとシートにもたれかかる形になるため、帯が崩れてしまいます。帯の崩れは自分で直すことが難しいため、運転時は背もたれを使わず背筋を伸ばすようにしましょう。
姿勢を起こしにくい場合、シートを後ろに下げて浅く座るようにすると、重心を保ちやすくなります。
ペダルが遠くなって運転しにくい場合は、シートを動かさずに背もたれを倒し、背面のスペースを確保するとよいでしょう。
◇車内やシートベルトの汚れに注意する
着物で運転すると、気付かないうちに着物が汚れてしまう場合があります。自前やレンタルを問わず、着物で運転する際は見頃や裾の汚れに注意しましょう。
着物が触れやすい部分(車のドア、ボディ、シート、シートベルト)の汚れをあらかじめ掃除しておくと、着物を汚しにくくなります。
シートベルトの汚れが心配なときは、シートベルトと着物の間にタオルを挟んで汚れの付着を防止しましょう。
■まとめ
着物での運転そのものが道路交通法に違反することはありませんが、衣服や履物に関する道路交通法施行細則を定めている都道府県では、服装や履物によっては検挙の対象となる可能性があります。
着物で運転する際は袖を留めたり、履物を履き替えたりして、安全に運転できるように努めましょう。乗り降りの流れや座り姿勢を意識することで、運転中の着崩れや汚れの付着を防げます。